気候戦略開示の先進事例紹介:Unilever
世界的に企業の気候関連リスク・事業機会は年々拡大しています。企業はステークホルダーから高い水準のコミットメントを求められ、多くの企業がネットゼロ目標を宣言するようになりました。
ネットゼロ達成は今の技術だけでは困難なため、具体的な移行計画を開示すること自体も難易度が高い中、投資家向けの開示やコミュニケーションを工夫し、取り組みを進めている企業も存在します。
しかし、Climate Action 100+の「Progress Update 2022」(p.12)によれば、排出量ネットゼロの野心的目標を開示する企業の割合と、脱炭素戦略や短・中期目標を開示する企業の割合には大きなギャップがあり、課題となっています。
本記事では、この課題解決に対して積極的かつ先進的な企業である、Unileverの事例をご紹介します。
参考:Climate Action 100+ “Progress Update 2022”
■キーポイント
●高い目標とともに考え方を投資家に示し、双方向コミュニケーションを図っている
・ネットゼロへのコミットメントは、Unilever Compass to Sustainable Growthというビジネス戦略の中に含まれている。ネットゼロ目標達成までの詳細な計画は、Climate Transition Action Plan(CTAP)で示されている。
・ユニリーバはCTAPについて、2021年5月の株主総会で法的拘束力のない形で投票を求めた。
・ユニリーバは経済全体のネットゼロエミッションへの移行には、企業とその投資家がよりよく、さらに深いレベルでエンゲージメントを行うことが必要だと考えている。
●投資家に向けて、複数の媒体や使いやすいデータ形式で進捗を報告
・CTAPの進捗状況について、年次報告書で報告することを約束。
・サステナビリティサイトやCDPへの回答においても気候関連情報を開示。サステナビリティサイトには、実績データを投資家が活用しやすいExcel形式でも掲載。
・IRサイトでもサステナビリティ情報をまとめ、投資家によるサステナビリティ情報へのアクセシビリティを高めている。YouTubeでは、気候戦略についての投資家向けプレゼンテーション動画を公開。
■事例紹介:Unilever
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ネットゼロロードマップと報告のケーススタディ:ユニリーバ
※弊社には英語ネイティブのスタッフが在籍しております。以下の和訳は、弊社による日本語仮訳です。この日本語仮訳と原文で相違する記載があるときは、 全て原文が優先します。
背景
ユニリーバは多国籍消費財メーカーです。ユニリーバが展開するブランド(ダヴ、ヴァセリン、ジフなど)は、日本を含む194か国で販売されています。ユニリーバは「正しい方法でビジネスを行うことが優れたパフォーマンスを牽引する」と信じ、「パーパス主導」および「未来への適合」を掲げ、業績を伸ばしながら、将来を守るべくリスクを管理することを投資家に伝えています。
パーパス:「サステナブルな暮らしを”あたりまえ”にする」
ビジョン:「サステナブルなビジネスのグローバルリーダーになることで勝てるパフォーマンスを実現すること」
従業員数:約100カ国に12万7千人
総売上高: 601億ユーロ
ネットゼロへのコミットメントとロードマップの開示
CO 2を含む温室効果ガス(GHG)排出量をネットゼロにすることを掲げる、ユニリーバの最新コミットメントは、2021年の事業戦略サステナブルな成長のためのユニリーバ・コンパスで述べています。達成までの詳細なプランは、2021年の株主総会での承認のため株主に提出されたClimate Transition Action Plan(CTAP)(英文)に示されています。
同社は、目標と行動は「パリ協定を実現する野心的な1.5℃目標と一致した排出削減経路を実現するように設計されている」とし、「2020年代と2030年代の主な焦点は、オフセットではなく排出削減にある」と述べています。
ユニリーバは、CTAPの進捗状況を毎年Annual report and accounts(英文)で報告することをコミットメントしており、2022年に初めて報告しました。ユニリーバのTCFDに沿った情報開示は、そのアニュアルレポートにも含まれています。
これらの資料はすべて、ユニリーバのウェブサイトや一般向けのPlanet & SocietyのClimate action(英文)、投資家向けのSustainability for Investors(英文)で入手でき、ユニリーバのCDP質問書回答も掲載されています。
ユニリーバは、前回の10ヵ年戦略であるUnilever Sustainable Living Plan 2010 to 2020(USLP)(英文)に基づき、2020年にユニリーバ・コンパスという今後15年間の統合企業戦略を始動しました。
コンパスは、サステナブルなビジネスのグローバルリーダーになる(あるいは、そうあり続ける)ための戦略の1つとして、「ネットゼロを実現するために気候変動へのアクションを前進させる」というユニリーバの意図と、実現に向けて取り組んでいるネットゼロ目標を示しています。
・2039年までにバリューチェーン全体で温室効果ガス排出量実質ゼロ
・2030年までに製品ライフサイクルから生じる温室効果ガスの負荷を半減
・2030年までに事業活動からの温室効果ガス排出量を実質ゼロ
・2030年までに、すべての洗剤および衣料用製品で化石燃料由来のカーボンを再生可能またはリサイクルカーボンに置き換える
・ユニリーバのすべての製品のカーボンフットプリントを共有する
これらの目標は、「地球の健康を改善する」という包括的なテーマに該当し、「自然の保護と再生」と「ごみのない世界」のトピックもカバーしています。これら2つのトピックの目標の多くは、カーボンおよびその他のGHG排出量(食品廃棄物の削減/バージンプラスチックの使用など)にも関連し、影響を及ぼします。
2. Climate Transition Action Plan(CTAP)(英文)
また、2021年より始動したCTAPでは、以下について言及しています。
・ユニリーバの気候戦略を詳細に説明
・排出削減とネットゼロの目標の定義
・それらを達成するために取り組むべきアクションを設定
ユニリーバは株主に向けて、CTAPを株主総会に提出し、その中の目標とプランについて拘束力のない諮問投票を行いました。
このプランでは、ユニリーバの操業、バリューチェーン、ブランドと製品、およびより広い社会との関係を通じた排出削減に焦点を当て、重要性を優先しています。
また、ガバナンス、データ、開示に対するユニリーバのアプローチも示し、次のことをコミットメントしています。
・CTAPに関してUnilever Annual Report and Accountsで年次報告
・重要な変更を記載した、3年ごとに定時株主総会での諮問投票のために更新されたプランを提出
・外部の第三者保証を取得する
・気候変動パフォーマンスを役員報酬に反映する
・TCFDフレームワークに基づく情報開示を継続
・CDPを通じた投資家への継続的な開示
重要なことは、ユニリーバは、株主への説明責任を排出削減目標の中心に据えている点で、次のように述べています。
「私たちは、経済全体のネットゼロへの移行には、企業と投資家のより深いレベルの関与が必要になることを知っています。私たちのプランを設定するにあたり、透明性と説明責任のレベル向上が対話強化につながり、他の企業も追随することを願っています。」
3. Unilever Annual Report and Accounts
2022年におけるチェアマンやCEOからのメッセージでは、CTAPまたはネットゼロについて具体的な言及はありませんでしたが、CEOはサステナビリティ実現に向けたアジェンダのビジネスケースを作り上げています。
「コスト面で、サステナブルなビジネスへの移行を推進するために投資しなければならないことがよくありますが、コスト効率はますます可視化されています。2008年以降、工場のエネルギーと水の効率化対策により、約15億ユーロのコストを削減できています。」
しかし、この報告書には、実質的にユニリーバ初となるCTAP進捗報告(P35〜41)が含まれています。
また、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言に基づく開示(P42〜51)も含まれており、ネットゼロに関連するガバナンスと戦略、リスク管理をカバーし、指標と目標はCTAP進捗報告セクション(P35〜41)に掲載されています。
排出削減は、「非財務パフォーマンス」セクションにも掲載され、気候変動へのアクションに関する目標(P60)、ステークホルダーエンゲージメント(P62~63)、英国政府による環境報告ガイドラインStreamlined Energy and Carbon Reporting(SECR)の要件を満たすデータ(P64)、非財務およびサステナビリティに関する情報についての声明(P65)、CTAP進捗報告内(P35~41)で適用されているWEF- IBC共通指標(P65)、直面する気候変動リスク(P69)が示されています。
4. ユニリーバウェブサイト
ユニリーバのホームページ(グローバル版)上のトップバナーは風力発電機であり、グローバル大企業という立場から脱炭素化の重要性を明確に伝えています。
ウェブサイトのPlanet & Society(英文)は、同社がコンパスを通じて「世界に影響を与える課題に対してアクションを起こしている」ことを説明しています。
Planet & Societyには、Climate action(英文)に特化した広範なサブセクションがあり、CTAPにあるように、2030年までに事業活動からの温室効果ガス排出量実質ゼロと、2039年までにバリューチェーン全体でもネットゼロを達成するためのユニリーバの道筋について、詳しく説明しています。
Sustainability for Investors(英文)
このウェブサイトには、同社の排出量ゼロ目標と戦略を概説したYouTube動画のプレゼンテーション「Climate action: a Unilever Briefing for Investors」(2020年9月28日公開・英語)などがアップロードされた、投資家向けのサステナビリティページもあります。
サステナビリティ・レポーティング・センターでは、投資家がサステナビリティに関するパフォーマンス・データを提供しています。2015年から2022年までの気候変動へのアクション目標に対する実績データをExcelスプレッドシートでダウンロードできます。
5. CDP質問書回答
ユニリーバは、CDP気候変動質問書の回答を、その他への回答やランキングとともにWebサイトで公開しています。CDP質問票はCTAPを通じたユニリーバの排出削減の取り組みに幅広く言及した内容になっています。
6. 気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言に基づく開示
ユニリーバは、Unilever Annual Report and Accountsで公開しています(P42〜51)。
脱炭素化に関する開示好事例のリソース
・Financial Reporting Council「CRR Thematic review of TCFD disclosures and climate in the financial statements)」(英文)
・PWC 「Excellence in Climate Change Reporting 2022」(英文)
・EY「第4回EYグローバル気候リスクバロメーター いつになれば、気候情報開示が脱炭素化にインパクトを与えるのか」
・PWC「ネットゼロ経済指数2022」
・Climate Action 100+ 「ネットゼロ企業ベンチマーク2.0」
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日本でも積極的に脱炭素化の取り組みを進める企業があります。優良事例として、2023年5月に開催されたRI JAPAN 2023で素晴らしいプレゼンテーションを行っていた3社をご紹介します。