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2021年7月7日
エッジ・インターナショナル

統合報告書2020年版調査 ~マテリアリティ~

EDGEリサーチ・インスティテュートは、「統合報告書2020年版調査 ~マテリアリティ~」の結果を公開しました。当社運営の企業価値レポーティング・ラボでは、統合報告書を発行する企業を毎年調査してきました。それら企業のうち上場企業を対象に、マテリアリティ開示の現状がどうなっているのか調査・分析を行ったもので、4回目の調査となります。本調査は、企業と長期投資家のよりよい対話に向けた示唆になるものと考えています。なお、本調査の詳細につきましては、ご希望いただきました機関投資家の皆様には、情報提供させていただきます。

調査目的

統合報告書を発行する企業が「マテリアリティ」についてどのように開示しているか、現状を把握する。

調査概要と結果

自己表明型統合報告書1を発行している日本の上場企業を対象に「マテリアリティ」に関連する下記の要素について、統合報告書における開示の有無を調査した。

マテリアリティを開示している:71.5%(391社)
投資家視点のマテリアリティを開示している:31.1%(170社)
②について機会とリスクに分けた開示をしている:20.8%(114社)
マルチステークホルダー視点のマテリアリティを開示している:52.3%(286社)
②と④両方開示している:11.3%(62社)
マテリアリティの特定プロセスを開示している:34.9%(191社)
特定プロセスにおける参考指標
SDGs:18.1%(99社)、GRI:12.6%(69社)、ISO26000:12.2%(67社)、
ESG評価機関項目:8.0%(44社)、SASB:5.3%(29社)、
グローバル・コンパクト:2.6%(14社)、OECD多国籍企業行動指針:1.1%(6社)
マテリアリティを前年から見直している:10.1%(55社)
マテリアリティのKPIを設定している:26.3%(144社)
マテリアリティに関連するSDGsへの紐づけを行っている:51.2%(280社)
事業部門別の機会とリスクを開示している:19.7%(108社)
TCFD提言に沿った記載がある:21.9%(120社)
編集方針における参考ガイドライン
IIRC:52.8%(289社)、経済産業省 価値協創ガイダンス:44.1%(241社)、
GRI:26.7%(146社)、環境省 環境報告ガイドライン:17.4%(95社)、
ISO26000:12.1%(66社)、グローバル・コンパクト:1.1%(6社)
TCFD:2.4%(13社)

※マテリアリティという言葉を使用しない類似表現でも、内容が該当していれば抽出している。
※特定されたマテリアリティについて妥当性は問わない。

1
企業価値レポーティング・ラボ(運営:株式会社エッジ・インターナショナル)が調査している「国内自己表明型統合レポート発行企業リスト 2020年版」の579社のうち、日本の上場企業547社を対象。
http://cvrl-net.com/archive/pdf/list2020_202102.pdf

考察

「マテリアリティ」は、あらゆる企業報告における基本的な概念で、発行体に対する読み手の評価や分析結果に差異をもたらす情報やその判断基準を指すが、その情報の主たる利用者について、投資家と、投資家を含むマルチステークホルダーの二つに大きく分けられる。

2020年12月、非財務情報開示基準設定組織である5団体、CDP、CDSB、GRI、IIRC、SASB(2021年6月にIIRCとSASBは合併)が公表した「企業価値に関する報告」において、報告要素を大きさの異なる3枚のレンズに見立て、「サステナビリティ報告」と「サステナビリティ関連財務開示」を区別しつつ、「サステナビリティ関連財務開示」と「財務会計と開示」を「企業価値報告」と示している。また、時間の経過とともにサステナビリティ課題はレンズ間を移動しうるとして、「ダイナミック・マテリアリティ」という考え方の重要性も強調した。

本調査における「投資家視点のマテリアリティ」は「企業価値報告」、「マルチステークホルダー視点のマテリアリティ」は「サステナビリティ報告」とそれぞれ概ね同じ領域を指している。この二つの視点のいずれか、または両方の視点からマテリアリティを統合報告書で開示している企業は71.5%(391社)で、年々増加傾向にあり、多くの企業で開示要素としての認識が広まってきている。

今回の調査で多く見られたのは、引き続き「マルチステークホルダー視点のマテリアリティ」で、調査対象の半数超にのぼる52.3%(286社)で記載があった。これらはサステナビリティ報告の開示基準であるGRIが要求する「マテリアルな項目」に準拠したもので、いわば「事業活動によって著しい悪影響を及ぼす課題」や「事業を通じて解決に貢献できる社会課題の優先付け」が為されている。

一方、SASBやTCFDの定義に代表される「投資家視点のマテリアリティ」は、企業の中長期的な価値創造の実現に対して影響があると推定される事象であり、ビジネスモデルの持続性の担保や財務パフォーマンスへのインパクトに関心が向けられているが、この視点のマテリアリティを記載したレポートは31.1%(170社)と、増加傾向にはあるものの依然として「マルチステークホルダー視点のマテリアリティ」より少ない。このうち機会とリスクに分けた開示は20.8%(114社)で見られた。

マテリアリティを前年から見直した企業は10.1%(55社)と、コロナショックという大きな環境変化に直面したにも関わらず少数にとどまった。2020年は日本でもカーボンニュートラルが宣言され、急速な産業構造の変化が始まると予想される。見直し中または予定とする企業は1.5%(8社)だったが、来年は再検討する企業が増加することを期待したい。

特定後は、実効性ある取組みにするため、適切なKPIを設定し、PDCAサイクルを回していくことも有効である。今年、KPIを設定していた企業は、マテリアリティを開示した企業の36.8%に当たる26.3%(144社)と前年よりもやや増加した。

2020年9月、IFRS財団はサステナビリティ報告における一貫性及び比較可能性を改善する緊急の必要性があるとして「サステナビリティ報告に関する協議ペーパー」を公表した。この中でマテリアリティに対するアプローチについて、気候変動等の目的適合性のある事象が報告企業に与える影響に関する情報に焦点を当てる「シングル・マテリアリティ・アプローチ」と、それに加えて報告企業がより幅広い環境に与える影響にも焦点を当てる「ダブル・マテリアリティ・アプローチ」の両者に言及し、ダブル・マテリアリティの重要性を認めつつも緊急性の高さから、漸進主義的なアプローチとしてシングル・マテリアリティの採用を推奨した。この点はパブリックコメントでも大きく見解が分かれる傾向があった。パブリックコメントの結果を受け、2021年11月に新たに設立が予定されるISSB(国際サステナビリティ基準審議会)は、投資家をはじめとする世界の資本市場参加者の意思決定に重要な情報に焦点を当て、主要な地域の基準設定主体(例えば、EUはダブル・マテリアリティを採用)と協力することやより広範なサステナビリティの影響を捉える報告要件を調整するための柔軟性も提供するという「ビルディング・ブロック・アプローチ」を戦略的方向性として示した。

日本においては、2021年6月にコーポレートガバナンス・コードの再改訂が実施され、サステナビリティについての要請が拡充した。「サステナビリティを巡る課題への対応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題である」とし、2022年4月に始まる新市場区分であるプライム上場企業に対しては、TCFD開示も求めている。既にTCFD提言に沿った開示を行った企業は21.9%(120社)と前年からほぼ倍増しており、来年にはさらに多くの開示が予想される。

EUにおける非財務情報開示指令(NFRD)の改訂をはじめとした、サステナビリティ情報開示義務化の動きはこの1年で大きく進展した。サステナブルな社会構造への変革を促すためのファイナンスに対する期待、またサステナビリティ課題が金融システムを不安定にする恐れがあることから、金融機関に対する規制も一層強まっている。このような規制においては、気候変動のようにシステミックリスクになりうる課題が優先的に対象となる。

一方、サステナビリティ課題には、全企業に共通するものと、各企業の事情に応じて異なるものが存在する。世界的に気候変動が最優先課題として開示規制が強化されているが、個社で見れば気候変動が最重要課題とは限らない。セクターや操業エリアなどの外形的な側面で特定できる課題もあるが、ビジネスモデルや競争優位性、経営戦略、企業文化等によっても課題は異なる。前者の外形的なテーマはSASB等のセクター別開示基準やESG評価機関が特定するキーイシューによってある程度推定できるが、後者は企業のサステナビリティそのものであり、自社で分析・特定するしかない。投資家が一層サステナビリティ課題を重大リスクと認識するようになる中で、外形基準にとどまらない開示の重要性はさらに増している。また企業にとっても、規制強化が進む外部環境でこそ、マテリアリティを特定することは経営判断をサポートするために必要である。

参考

2019年版の調査要素と結果は以下の通り。対象社数は487社。

マテリアリティを開示している:68.8%(335社)
投資家視点のマテリアリティを開示している:25.3%(123社)
②について機会とリスクに分けた開示をしている:16.4%(80社)
マルチステークホルダー視点のマテリアリティを開示している:55.0%(268社)
②と④両方開示している:11.5%(56社)
マテリアリティの特定プロセスを開示している:33.7%(164社)
特定プロセスにおける参考指標
SDGs:21.6%(105社)、GRI:15.2%(74社)、ISO26000:14.8%(72社)、
ESG評価機関項目:9.0%(44社)、SASB:4.1%(20社)、
グローバル・コンパクト:3.5%(17社)、OECD多国籍企業行動指針:1.6%(8社)
マテリアリティを前年から見直している:12.7%(62社)
マテリアリティのKPIを設定している:22.2%(108社)
マテリアリティに関連するSDGsへの紐づけを行っている:44.8%(218社)
事業部門別の機会とリスクを開示している:20.9%(102社)
TCFD提言に沿った記載がある:12.1%(59社)
編集方針における参考ガイドライン
IIRC:46.2%(225社)、経済産業省 価値協創ガイダンス:33.1%(161社)、
GRI:25.7%(125社)、環境省 環境報告ガイドライン:17.7%(86社)、
ISO26000:14.0%(68社)、グローバル・コンパクト:1.0%(5社)

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本件に関する問い合わせ先

株式会社エッジ・インターナショナル
TEL: 03-3403-7750
E-MAIL: edge@edge-intl.co.jp

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