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2019年6月4日
エッジ・インターナショナル

統合報告書2018年版調査 ~マテリアリティ~

調査目的

統合報告書を発行する企業が「マテリアリティ」についてどのように開示しているか、現状を把握する。

調査概要と結果

自己表明型統合報告書(※)を発行している日本の上場企業を対象に「マテリアリティ」に関連する下記の要素について、統合報告書における開示の有無を調査した。
① 投資家視点のマテリアリティ:17.8%(71社)
② ①について機会とリスクに分けた開示:9.0%(36社)
③ リスクと対応策、または気候変動の機会とリスクの開示:20.4%(81社)
④ 事業部門別の機会とリスク:17.1%(68社)
⑤ マルチステークホルダー視点のマテリアリティ:47.5%(189社)
⑥ マテリアリティの特定プロセス:24.6%(98社)
⑦ ⑥にSDGsを考慮:23.1%(92社)
⑧ SDGsへの言及:76.1%(303社)

考察

「マテリアリティ」という言葉の定義は、様々な情報開示のフレームワークによって一様ではないが、共通する概念としては、発行体に対する評価や分析結果に差異を生む情報ということができる。そして、その情報の主たる利用者について、投資家と、投資家を含むマルチステークホルダーの二つに大きく分けられる。

今回の調査で多く見られたのは、後者のマルチステークホルダー視点のマテリアリティで、調査対象の半数弱にのぼる189社(47.5%)で記載があった。これらはCSRレポートの開示ガイドラインである「GRI」が要求する「マテリアルな項目」に準拠したもので、いわば「事業を通じて解決に貢献できる社会課題」の優先付けが為されている。

一方、IIRCやSASBが定義する投資家視点のマテリアリティは、企業の中長期的な価値創造の実現に対して影響があると推定される事象であり、ビジネスモデルの持続性の担保や財務パフォーマンスへのインパクトに関心が向けられているが、この視点のマテリアリティを記載したレポートは71社(17.8%)に留まった。このうち機会とリスクに分けた開示は36社(9.0%)である。

リスクの記載有無については、有価証券報告書の「事業等のリスク」の転載ではなく、リスクとその対応策にまで踏み込んだ開示や、TCFDに沿った気候変動の機会とリスクの開示も調査したところ、81社(20.4%)であった。また、事業部門別にSWOT分析等のリスク開示を行うレポートは68社(17.1%)あった。

投資家は企業価値を分析する際、企業がESG課題を収益機会として取り込めているか、ダウンサイドリスクとして認識し対策が取れているかに着目する。TCFDは、多岐にわたるESG課題のなかでも気候変動に特化して、その機会とリスクの財務的影響やシナリオ分析の開示を推奨しているが、重要なのは精緻な影響額の算出ではなく、経営陣の認識である。また、気候変動のみならず、他ESG課題について分析、開示する際のフレームワークとしても有用であろう。

IIRCが定義する統合報告書の主たる読者は投資家である一方、現在日本で発行されている統合報告書の多くがCSRレポートをベースに作成されていることを背景に、現状はマルチステークホルダー視点のマテリアリティの記載が多くみられる。ただし、昨年度はマルチステークホルダー視点のみだったが今年度は投資家視点も組み込んだレポートや、マルチステークホルダー視点のマテリアリティ記載に加えて投資家視点の記載を別途拡充するレポートも見受けられ、多くの企業が本質的な統合報告書への模索途上と言えそうだ。マテリアリティの特定に際しては、企業と投資家が、互いの評価の時間軸を合わせたうえで定期的な対話を通じて妥当性を確認し、見直しを続けることが必要である。

SDGsについては、何らかの言及をするレポートが303社(76.1%)に達した。多くの企業が、既存の製品やサービス、SDGs公表前に策定されていた経営戦略をSDGsの17目標に紐付けしている。こうした後付け作業は自社の社会的意義の再確認には有効だが、SDGsの本質ではない。SDGsが民間企業を含むすべてのステークホルダーに期待するのはトランスフォーミング(変革)である。これまでの常識や延長線では解決しない多くの社会的問題に対し、長期的に目指す姿からバックキャスティングした新たな取り組みへの着手が求められている。今後は、新たな長期計画を策定する際、経営レベルでSDGsに貢献する新たな事業機会を見いだし、企業価値向上への結びつきを示す企業が増えることが期待される。また、自社の経営資源との関連性を、17目標レベルからさらに踏みこみ、169のターゲットや232の評価指標のレベルで検討し進捗管理できると、より具体的になるだろう。

(※)企業価値レポーティング・ラボ(運営:株式会社エッジ・インターナショナル)が調査している「国内自己表明型統合レポート発行企業リスト 2018年版」の414社のうち、日本の上場企業398社を対象。
http://cvrl-net.com/archive/index.html

参考

2017年版の調査要素と結果は以下の通り。対象社数は329社。 ① ESGを含む長期的なマテリアリティ:3.0%(10社)
② 中期経営計画におけるマテリアリティ:81.5%(268社)
③ CSRにおけるマテリアリティ:45.6%(150社)
④ ③の抽出プロセス:22.8%(75社)
⑤ ④にSDGsが考慮されているか:13.7%(45社)
⑥ SDGsへの言及の有無:41.6%(137社)

関連リンク

本件に関する問い合わせ先

株式会社エッジ・インターナショナル
TEL: 03-3403-7750
E-MAIL: edge@edge-intl.co.jp

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